野良猫との格闘の顛末記

野良猫に花壇を荒らされる

 私がお借りしている借家には、結構広い庭があり、道路際には花壇を、内側は畑にして野菜を作ったりしています。

 借りた当初は数年間放ったらかされており、庭は荒れ放題で、除草剤で枯れた草がふかふかのマットのようになっており、野良猫がその上で昼寝をしたり、自分の庭だとばかりに好き放題をしているような状態でした。

 仕方なく草を処分して、超音波を出して猫を追い払う装置を購入しました。

 この装置は、センサーで動物(動くもの)を感知し、超音波を発する物ですが、一律の超音波であれば猫が慣れてしまうため、超音波の波長をランダムにして、猫が近寄らないようにと考え出された物であります。

 導入当初は凄い効き目だと喜んでいたのでありますが、最近また、猫が花壇を掘り返した跡があり、猫のウンチらしき物も散見されるようになりました。但し猫は一匹だけが入り込んでいるようでした。恐らく縄張りを主張しているんでしょう。

 前述の超音波の機械が故障でも起こしているのかと思って調べましたが、どうも正常に作動しているようであります。

 向ける方向が悪いのかと、野良猫が最近掘り返している花壇の方向に向けましたが、全く効果がありませんでした。

 ネット上では猫の侵入対策が沢山述べられていますが、特効薬はなく、先述の超音波が一番確実な方法のようですが、しつこい猫には効かないこともあるような意見も述べられていました。

 もし野良猫が一定の場所をトイレ代わりにしたいというなら貸して上げても良いのですが、どうもマーキングというか、自分の縄張りにおしっこで印をつけるという習性のために、色んなところをトイレ代わりにしてしまうようです。

 また、ウンチに砂をかけるという習性もあって、それはそれで行儀が良いことなんですが、花壇を掘り返し、芽が出始めた球根を掘り返すに当たっては、黙認するわけにはいかず、何とか対策を考えなくてはならないようになってきました。

ゴキブリホイホイならぬネズミホイホイがネットで捨て値で売られていた

 猫対策をネットで色々調べていると、オークションに、猫ならぬネズミ対策(「猫不要」ということで検索に引っかかった)ということで、ネズミホイホイが捨て値で売られていました。

 これを細く切って花壇の周りに敷き詰めたら、猫が嫌がって来なくなるのではなかろうかというひらめきが湧いてきました。

 誰も入札しないので開始価格の捨て値で落札したので、ほぼ送料だけで入手が出来ました。

 現品を入手してみると、やはりネズミが動けなくなるほどの強力な接着剤で、猫は身体の大きさから考えても動けなくなるとは考えられませんが、もし猫の身体にべったりと張り付くと、極端に行動が制限されてしまい困るだろうと考え、2cmぐらいの幅(猫に実害は起こらないだろうが、嫌がるだろうという大きさ)に切って、くっついても剥がせるだろうという大きさにしました。

 早速、猫が掘り返した花壇のその場所に、四角く囲いをしました。

 猫がこの場所に来て、ネズミホイホイに接触して、こんなところに来たら大変だという思いになってくれるためには、この囲いの中に入ってくれなければならないので、この中にエサ代わりとして“竹輪”の切れ端を置いておきました。

 猫が進入しないようにという目的であるにもかかわらず、わざわざ猫が侵入するようにエサを置き、その猫がネズミホイホイのイヤらしさに気づいて、やはり侵入をしないでいようと思わせるための仕掛けという、何とも回りくどいことを考えたものであります。

 その場所は、私がいる部屋の窓から見える所にあるため、猫が来たらどんな反応をするか見定めることができると思っておりました。

 そのチャンスは思いの外早くというか、その日の内に実現しました。餌の竹輪に釣られて来たのでしょう。

 バリアのように囲ってあるネズミホイホイを警戒しながらも、餌の誘惑に打ち勝てず、足を踏み入れます。

 餌を口にし、足を動かそうとした途端、飛び跳ねるように後ろに下がります。そして同時に小さなネズミホイホイの一片が一緒に宙を舞います。

 もう一度その猫は残っている餌を求めてバリアの中に入っていき、全く同じような行動をします。

 二度同じ行動をして、餌が無くなったので、2mほどの高さの金網のフェンスの下の隙間を、いつもここを通っているよと言わんばかりに、敷地の外に出ていきました。

 翌日も同じ仕掛けをして、私はその借家を後にしました。やはり餌を求めて来るんだろうか、と思いながら・・・。

 二日後、家に戻ると、餌は完全になくなり、バリア代わりのネズミホイホイが三片ほど、散らかっていました。

 やはり来たな、と思いながら、その日は一日中在宅の予定だったので、もう一度、同じ仕掛けをしてみました。

 但し、今までは一重の囲いであったのを二重の囲いにし、ネズミホイホイを踏みつけなければ餌が取れないように工夫をし、再び三度、野良猫の来訪を待ちました。

 ここまで来ると、猫との戦いと言うより、何か親近感さえ湧いてくるのが不思議な感覚でした。

 昔の戦国武将が、敵でありながらも好敵手に一目置いたような、何か不思議な感覚を覚えました。

 しかし待てど暮らせど、野良猫は近づいてきてはくれません。

 フェンスの向こうは空き地になっているので、その空き地を当該の野良猫が通るのは見えるのですが、餌のある方向は一顧だにせず、全くの無視という形でその空き地を横切っていきます。

 ネズミホイホイのイヤらしさに、近づかないと決めたのだろうか?

 もしそうだとしたら、凄い意志の力だと、感銘を覚えます。

 私なんか、何度も何度も決心しながら、この現象界の無常な物に踊らされて、その決心を破ってしまうことが多かったのに、この猫は危険には近づかないと心に決め、スッパリと誘惑を断ち切ったんだろうか?と思うと、頭の下がる思いがします。

現住人が、その場所の所有権を主張して良いのでしょうか?

 高橋信次先生が、ご講演の中で、次のようなお話をされています。

 (要約)
 ある男性が地縛霊(悪霊)に憑依されています。
 高橋信次先生がその悪霊を呼び出し、「何故、憑依しているのか?」と、その理由を問われる。
 悪霊は、「この者は私の敷地に勝手に入り込んで、住み着いてしまった。この土地は私の土地である。こんなことをされたら貴方ならどうする?」と言う。
 高橋信次先生は、「それはそうだけれども、もう貴方は死んで何百年も経ってしまっている」と言われると、悪霊は死んではおらぬと言う。
 問答は続くのですが、結局悪霊は、自分は死んだのだということを悟り、高橋信次先生のお力により、天上界に上がっていくのです。
 ・・・・・・・・
 相手が何らかの行為をするには必ず理由があるはずで、この悪霊も、自分の土地に知らぬ人間が勝手に入ってきたと思っていて、それで憑依していたのであり、憑依霊から見たら、決して理不尽なことではないはずでありましょう。

 いま住み着いている人が、この土地はかくかくしかじかで登記も済んでいるなどと言っても、それはこちらの論理であって、相手は、そんなことは知らぬと言うでありましょう。

 この憑依霊の子孫は持ち主が死んだから処分をしたのでありましょうが、当の本人は死んでいるという自覚がないのですから、当然のこと、自分の物だと思っており、そこにズカズカと知らぬ人間が入り込んだら、普通の人間であれば理不尽に思うのは当然でありましょう。

 翻って我が家に出入りする野良猫。先住人(借家の持ち主)よりは後にその家に入り込んだのでしょうが、元はと言えばその先住人が空き家にし、草ボウボウの状態にし、野良猫に解放してしまったのが原因でありしょう。

 野良猫が日なたぼっこをし、自分の縄張りだと主張していた所に、そこに後から住み着いた人間(私のこと)が、「俺の住処だ!」と主張をし始めたのであり、猫にとっては、もし自分より弱い生き物であったら、一も二もなく追い出してしまうことでしょう。

 残念ながら身体も大きく、頭もそれなりに回る人間が相手だから、仕方なしに明け渡してしまわざるを得ないことになってしまったのでしょう。

共存共栄の世界

 私も安らかに生活が出来る、猫も自分の領分を侵されないで生活が出来る、そんなお互いがハッピーな棲み分けが出来たら良いんですが、お互いの意思疎通が難しい間柄では、それも難しいのかも知れません。

 しかし何か釈然としないんですよね、力の強い人間が、自分の都合だけで、自分より先に住みついていた先住者である猫を追い出すということに。

 ネズミホイホイを撤去してからかなりの日数が立ちました。

 件の野良猫はそれから暫くは、家の中に入ってくることはありませんでしたが、ほとぼりが冷めたと思ったのか、またぞろ、花壇の土をかき回すことを始めました。

 今回はまず、猫が進入しづらいように、フェンスの下の空隙を封鎖することにしました。

 猫バリアーというプラスティックで出来たトゲトゲの物を空隙に張り巡らし、フェンスの下からは入り込めないようにし、その上で、再々度、ネズミホイホイを仕掛けました。今度は本物の猫のエサ(この為にわざわざ買ってきました)をその中央に置いて。

 猫はやってきました。フェンスの下をくぐれないものだから、2mのフェンスを軽々と乗り越えてやってきました。

 一度目は、餌を少し食べてたところでネズミホイホイが足にくっついたので、飛び跳ねてそこから離れました。

 ネズミホイホイがイヤだったのか、その日はエサが残っているにもかかわらず、我が家の庭を一回りして、フェンスを跳び越えて出ていきました。

 乱れたネズミホイホイを整備して、更に厳重に、二重の囲いとして、ネズミホイホイに触らないかぎり、エサにたどり着けないようにしました。

 二日ほど家を留守にした後で、その現場を確認しますと、ネズミホイホイがかなり乱れているのと、一枚のネズミホイホイの粘着部が剥がれ、台紙だけが残っていました。

 これは間違いなく猫が進入してきて、猫の身体のどこかにネズミホイホイがくっつき、猫が口で引きはがし、台紙だけが剥がれたのではないかと推測しました。

 ヒョッとすると、粘着部は猫にくっついたままかも知れないと思うと、ちょっと可哀想なことをしてしまったな、という気がして落ち込みました。

 それから何日も経ちますが、猫はフェンスの中に入ってこようとはしないようです。

 エサをフェンスの外に少しだけ置いて、それを食べるとフェンスの中のエサも見えるし、臭いも分かるだろうということをしましたが、フェンスの外のエサは毎日無くなるのですが、フェンスの中には入ってこようとはしないようでした。

 数日後、幸いにして遠目ではありますが、フェンスの外の餌を食べる猫を見たところ、ネズミホイホイの粘着部がくっついていているような形跡はなく、綺麗な毛並みをしていたのでホッとしました。

 よっぽどネズミホイホイが嫌だったのか、時間の経過と共に自分の縄張りにマーキングすることを忘れてしまったのか、どちらにしても、若干の後ろめたさを別にすると、有り難いかぎりであります。

 でも、「お前が自分の縄張りにしていたところを追い出してご免ね」という思いを、どこかで形にしたいと思い、わざわざ購入した猫用の餌が無くなるまで、フェンスの外の空き地に置いて上げることにしました。

 この写真の猫が当該の猫であります(表題に掲載の猫の写真も、同じ猫の写真であります。わざわざ写真を撮りに庭に出ますと、逃げようかどうしようかと身構えてくれました)。

 地上約30cmの高さにえさ箱を設置して、この猫が食べれるようにしています。

 地上30cmにして食べにくくしているのは意地悪ではなく、この猫に愛着を感じ、ここで食べているのを長く眺めていたいためです。

 まさしく、戦友というか、切磋琢磨し合ったライバルというか、尊敬する戦う相手といったところでしょうか。

 共存共栄とは言えない、ただの自己満足かも知れませんが、フェンスの外で猫に買ってきた餌が無くなるまで上げるという行動をもってして、本件は一件、落着ということにさせていただきたいと思っております。

 手持ちのエサが無くなって、もう上げることができなくなっても当該の猫が、フェンスを跳び越えて進入しないことを願いつつ・・・。


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