「幸せの黄色いハンカチ」を彷彿とさせる、おっちょこちょいの出来事

ある日、妻が寝坊をしました

 私は普段、朝4時に起き、高橋信次先生のご本を読ませていただいております。もう10年以上になりますので、毎日少しずつであっても、心の発見は3冊を繰り返し繰り返し読んでおりますので、もう90回近く読ませていただいていることになります。

 朝食は、妻が6:45頃に起き出してきますので、それからになります。そして休みの日以外は、7:30頃に出かけていくのがほぼ日課になっています。

 ところが今日は、6:45分はおろか、7:10になっても妻が起きてきませんでした。

 結婚して何十年、毎朝朝食の準備をしてくれる、たまには疲れることもあるだろうと今朝は、7:15頃に、静かに家から出ていくことにしました。

 思い返しますと、遠い遠い昔、20年ぐらい前でしたでしょうか、そんなことが一回あったような気がしますが、記憶も定かではないほど昔のことでもあり、ずっと健康で準備をしてくれていたことに、朝食の準備が出来ていないことを契機に、感謝をさせていただきました。

段々大きくなる不安

 最初の頃は、単なる朝寝坊だろうと思っていました。

 5:00頃にはトイレに行った気配も感じていましたので、急に体調が悪くなることは考えにくい、等と思っておりました。

 ところが本当に大丈夫だろうかという不安の思いが、時間と共に膨らんで来るではありませんか。何かが起こったのではないか、と。

 不安の思いが出てくるたびに、「大丈夫。そんなことはあり得ないだろう?」と否定していましたが、思い出す時間間隔も短くなっていき、不安の大きさも段々段々大きくなって来ました。

 私が居るところは家から車で片道20~30分程度のところで、大して遠いところではありません。

 私は意を決しました。家に帰って大丈夫なことを確認しよう、と。

 「電話したらいいじゃないか」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、電話をしたら、今朝のことを妻が責められていると思いはしないか、という気遣いがあり、それとなく無事を確認したいという思いでありました。

 11:00頃に早い食事をして、家に向かいました。

 どのようにして無事を確認しようか?

 ピンポンを押して、インターフォンの受話器を取るかどうかを確認しようか? 出れば無言で家から離れようか、これなら帰ってきたとは思われないだろうと思いましたが、どうもすっきりしません。

 そうだ、ベランダに洗濯物が干してあるかどうか、それを見れば一目瞭然である。どんなに出掛ける用事があるときでも、洗濯は必ず干してから出掛けていたし、もし寝坊で時間が無くて干さずに出掛けたとしたら家にいないはずだし、万が一体調不良だったりしたらすぐに救急車でも呼ばないといけないかも知れないので、もし干していなかったら鍵を開けて家に入ろうと考えました。

干してあったか否かの結論の前に、「幸せの黄色いハンカチ」という映画をご存じでしょうか?

 「幸せの黄色いハンカチ」という映画は、昭和52年に公開され、日本の名画と言われています。

 昭和の名優・高倉健さんが主役で、倍賞智恵子さんがその奥さん役、武田鉄矢さんの映画初出演作となり、桃井かおりさんも出演しておられます。
 ざっとしたあらすじは次の通りです。

 北海道網走刑務所で刑期を終えた主人公・元炭坑夫の島勇作が郵便局に立ち寄り、はがきを一枚出している。

 失恋して北海道・網走に来た男と、同じく失恋して東京から傷心旅行に来ていた女性と、島とが浜辺で合流し、三人で車で旅をすることになってしまいます。

 三人の車の旅は、行くあてもない旅であったが、島の住んでいた北海道内の夕張に向かっていた。

 いざこざやトラブルに巻き込まれながらも、三人の旅は続いて行き、その中で島の身の上話が、おいおいに語られて行く。

 妻が妊娠らしいと知った島は、医者に行くという妻が「もし妊娠していたら、竿の先に黄色いハンカチを揚げておく」という言葉に勇んで炭坑の仕事に行く。そして仕事帰りに竿の先にはためく1枚の黄色いハンカチを見つけた勇作は、天にも昇る気持ちだった。

 しかしその後、妻は流産してしまい、過去にも流産していたことを初めて知った島は、やけ酒をあおり、肩が当たったチンピラと喧嘩をし、相手を死なせてしまう。

 刑務所の島は、面会に来た妻に離婚を迫る。妻は泣いてしまうが、不器用にしか生きれない彼流の愛情表現であったのでしょう。

 島は、札幌を三人の旅の最後にし、一人で夕張に向かおうと考えており、それを切り出したとき、残り二人から執拗にその理由を言うように迫られ、重い口を開く。

 島は、出所直後の網走で妻宛てに葉書を出していたことを告白する。

 葉書には「もし、まだ1人暮らしで俺を待っててくれるなら…、鯉のぼりの竿に黄色いハンカチをぶら下げておいてくれ。それが目印だ。もしそれが下がってなかったら、俺はそのまま引き返して、2度と夕張には現れない」と書いたという。

 それを聞いた二人は、迷わず一緒に夕張に行くことを決心する。

 「やっぱり引き返そう」「どう考えたってあいつが一人でいるはずがない」「誰かと一緒になっているよ」と揺れる男の気持ちと、それを励ます2人。

 「あいつが俺を待っているはずはない」と臆病になる島は、引き返すことを要求し1度はそうするが、二人の「万一ということがあるでしょ、万一待っていたらどうするの?」という言葉で再び夕張に向かう。

 夕張の昔の家の近所。
 車が停まり、二人が車外に出る。島は、頭を抱えて車の外を見ようともしない。

 女が男に声をかけ、「ほらー、あれ!」と叫ぶ。

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 視線の先には、なんと何十枚もの黄色いハンカチが風にたなびいていた。

 力強く勇作の背中を押し出す2人。島とその妻の再会に、言葉は要らなかった。

私の家のベランダには、洗濯物が干してあったのでしょうか?

 私の家のベランダは、マンションの裏側にあります。

 いつも通る車道から裏道に入り、ゆっくりと車を運転しました。マンションの自宅の下に着いて、マンションのベランダを見上げました。

 洗濯物が干してあっても、夫婦二人分の洗濯物である、せいぜい下着と靴下ぐらいだろうと思っていました。

 見上げたベランダには何と、普段の洗濯物からシーツから、毛布までも、ベランダの隅から隅まで所狭しと、一杯に干してありました。
 「大丈夫! 私は元気よ~」と叫んでいるように思えました。

 そしてその瞬間、「幸せの黄色いハンカチ」の最後のシーンの、何十枚のハンカチが揺らめく画面を思い出していました。

 私は思わず苦笑をして、朗らかな、心温かな気持ちで自宅マンション下から離れていきました。
 おっちょこちょいの旦那だな~と思いながら……。

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