学校での出来事
ある日、光輔君が学校から帰ってきて、家に着きました。
光輔君はいつものようにドアを開け、『ただいま~』と言いました。
お母さんが飛んできて、光輔君を力一杯抱きしめて、「おかえり~。元気だった~? 楽しかった~?」と聞きました。
いつもだったら『ウン、こんなことがあってね・・・』などと話すのですが、今日は、『ウン・・・』と、何か元気がなさそうなのです。
お母さんは、「どうしたの? 何かあったの?」と聞きました。
『ウン、実は学校でね・・・』と、次のような話をしました。
松葉杖の友達
『同じクラスの○○くん、足が悪くて、松葉杖を使ってるねん』
「知ってるわよ。でも、明るくて元気な子じゃないの?」とお母さんが言いました。
『そうなんだけど・・・今日ね、クラスのみんなで運動場でサッカーをしようということになったんだけど、□□くんが、「○○、お前が来ると邪魔だから、教室に居ろ!」って言ったんだよね。
それでみんなでサッカーをして教室に帰ってくると、○○くんがしょんぼりとして一人で居たんだよね』
「一人で何をしていたんだろうね?」
『それは分からないんだけれども、僕は声を掛けられなくて、そのままにしていたんだよね』
「うん、それで?」
『授業が終わって帰る時間になったから、いつものように○○くんに一緒に帰ろうと言ったら、「いいよ!一人で帰る!」って、強い口調で言われたの』
「やっぱり、のけ者にされたのが辛かったのかな?」
『ウン、そうだと思う。
でも僕はやっぱり一緒に帰ろうと思って、校門のところまで後についていったんだけど、「ついてくるな!」って言われちゃったの。
仕方がないから、違う道を通って帰って来てん』
「○○くん、怒っているんだ」
『そうだと思う』
お母さんと一緒に反省をする
「何で怒っているんだろうね?」
『□□くんが、「お前は教室に居ろ」って言ったとき、友達の僕がシラン振りをしていたからかな?』
「そうかも知れないわね?
じゃあ、どうすれば良かったと思う?」
『□□くんが、教室に居ろって言ったとき、「○○くんも一緒に遊ぼうよ。僕が邪魔にならないようにするから」って言って上げたら良かったんじゃないかと思う』
「そうね。
どうしてそれが言えなかったのかな?」
『□□くんがボスのような人だったから、ちょっと言う勇気が出なかった』
「そのときに、光輔くんは何とも思わなかったの? その○○くんのこと・・・」
『そんなことはないけど、まあ良いかって思ってしまったんだよ』
「どうしてそう思ってしまったんだろうね?」
『○○くんがそんなに、しょげたり落ち込んだりすると思わなかったからかな?』
「そうなの?
これは大事なことだから、しっかり考えてね。
もし光輔くんが、○○くんの立場だったらどう思うだろうね?
僕の足が悪いから仕方がないんだって、そう思うかしら?」
『そんなことは思わないだろうな。
何でみんな、僕のことをのけ者にするんだろうって思うかも知れない』
「そうよね。
○○くんも、自分で足が悪くなってやろうなんて思って、足が悪くなったんじゃないわよね?」
『そりゃ、そうだと思うよ』
「それなら、のけ者にされたら、何で!って思うのは当たり前かも知れないわね?」
『ウン』
「どうしてそこまで思ってあげられなかったのかしら?」
『自分のことばっかり考えて、○○くんの気持ちになってあげられなかった』
「自分のことって、どんなことを考えていたの?」
『さっきも言ったけど、□□くんに、僕ものけ者にされるかも知れないと思ったり・・・どうすることが正しいことかを考えなかったし、やっぱり勇気がなかったんだと思う』
「いつかお祖母ちゃんが言っていたと思うけど、正しいことをするのは、勇気が必要なんだって。その通りね。
さあ、これからどうしようか?」
『どうしたらいいの?』
「さあ、どうしたらいいのかしら?
お母さんにもよく分からないから、こんな時は、お祖母ちゃんね。
お祖母ちゃんのお家に行って相談しよう」
と、二人はお祖母ちゃんのお家に行って、学校であったこと、お母さんと二人で話し合ったことなどをお祖母ちゃんにみんな話して、どうしたらいいのかを相談しました。
お祖母ちゃんの話
一通り話を聞いたお祖母さんは、まず最初にこんなことを話してくれました。
《人間は、この人生をどうしたら正しく生きられるか、それを一生懸命手探りで探しながら生きているの。
だから、間違えることもあるし、それはある程度仕方がないこととも言えるの。
でも、間違えたことをそのままにしてしまったり、どうするのが良かったのかと考えないでいたら、いつまで経っても間違いばかりしてしまうようになってしまうでしょう?
だから光輔ちゃんとお母さんが、どうしたら良かったのかと一緒に反省したことは、とっても素晴らしいことよ。
反省は、人間だけに与えられた神様のプレゼント。反省してお詫びをすることによって、神様からもお許しをいただけることになるのよ》
お祖母さんは続けました。
《まず大事なことは、○○くんに真っ先に謝ることね。
光輔ちゃんが一人で行くと会ってくれないかも知れないから、お母さんもついていって上げると良いわね。
そして正直に、さっき言ったようなことを話すのよ。
特に、□□くんのことが怖くて、一緒に遊ぼうと言えなかったけど、それが間違いだと思って謝りに来たって話すのよ。
後は、○○くんがどう言うかで、それに対して真剣に答えることね》
今度はお母さんが、こんなことを話しました。
「光輔が悪かったことは分かるんだけど、光輔が謝るだけで良いのかしら?
○○くんも、これからの人生で、こんなことはいくらでも出てくると思うけど、○○くんも、もっと強い心を持たないといけないんじゃないかしら?」
《その通り。
でも、その仕事はお母さんの役目ね。
○○くんに辛い思いをさせたんだから、キチンと謝ることはとっても大事なこと。
でもそれと一緒に、○○くんも強く生きるように言って上げるのも、とても大事なことだと思うの。
でも、人さまの子供だから、○○くんの態度や、親御さんの様子も含め、言って上げた方が良いと思ったら、言って上げると良いわね》
「具体的にはどんなことを言って上げたらいいのかしら?」
《お母さんには前にも言ったでしょう?
生まれてくると、全ての記憶を無くしてしまうけど、生まれる前は、お空の上の記憶も、お腹の中で聞いたことも、将来のことも、全部分かって生まれてくるんだって。
それを話して上げればいいのよ》
「そうか、自分で承知の上で、納得して生まれてきたんだものね」とお母さんが言うと、お祖母さんは、《そうよ。お母さんも分かってきたようね》と、笑顔で二人を送り出しました。
○○君の家の玄関口で
ピンポンを鳴らすと、○○くんのお母さんが出てこられました。
事情を話し、○○くんに謝りたいと言いました。
○○くんのお母さんが呼んでも、、○○くんは、会いたくないと言って出てきません。
「光輔君のお母さんも来ておられるのに、何を言っているの!」と、○○くんはお母さんに叱られて、渋々出てきました。
光輔君は自分が取った行動をキチンと謝りましたが、○○くんは、「もう良いよ!」と言って横を向いたままで、顔は怒ったままでした。
○○くんのお母さんが、「わざわざ謝りに来て下さっているのに、その態度はどういうこと? 光輔君ともう友達じゃないっていうことなの?」と、また叱りました。
○○くんは、「光輔とはずっと友達だと思っているよ」と言うと、○○くんのお母さんは、「それなら、心からそう言わないと。○○の一番大事な光輔君が離れていっちゃうわよ」と言いました。
光輔君は、『○○くんとはずっと友達ですから、離れたりしませんよ』と言いました。
これを聞いた○○くんも、「僕も意地になっていたみたい。僕の方こそご免な」と言って、二人は仲直りをしました。
お母さんの出番
《○○くんのお母さん、出過ぎたことかも知れませんが、チョット一言、お話ししても構いません?》と、お母さんが初めて口を開きました。
「ええ、逆にお願いします。○○も自分のことばっかり考えて、光輔君がどんな思いでここに来たかなんて、何も考えてもいないんですから」と言ってくれました。
お母さんは、こんな話をしました。
《○○ちゃん、人間は、何度も何度も生まれ変わってくるということは知っているわよね。
この地球に生まれてくると、その生まれる前のことはみんな忘れてしまうんだけれど、生まれる前は、このご両親の子供になって、こんな家庭で育って、こんな学校に行って、こんな友達を作って、こんな会社に就職して・・・というふうに、全部自分が計画して、周りの人たちと約束をして、自分が決めて、生まれてくるのよ。
そしてあなたは、生まれる前から、あゝ、僕は足が悪くなって生まれてくるんだって知っていたのよ。
極端なことを言うと、あなたは、足が悪くなるなんてイヤだから、今のご両親の所に生まれてくるのをやめることも出来たの。
でも、あなたはそんなに弱い子ではなかったから、「大丈夫、足が悪いのと人間の素晴らしさは何の関係もないんだ。他の足が悪い人、身体が病気の人なんかに、そんなことでめげてちゃダメだ」って、勇気づけて上げようって生まれてきたのよ。
これから大きくなって社会に出ても、今回のように、意地悪をする人なんかが出てくると思うけれど、そんなことに負けないでほしいの。
あなたは、足の悪い自分を知って選んで生まれてきた。
この人生、それ位のハンディキャップがないと、楽しくないと思って生まれてきた、それはそれは強い強い人間なの。
それを忘れないで、強く強く生きていって欲しいと思っているの》
「僕は、自分の足が悪くなることを知って、生まれてきたの?」
《そうよ。
そして、光輔と友達になったのも、チャンと二人で助け合って生きていこうって約束をしていたからで、クラスで席が隣になったから、なんてことはないのよ。
隣のクラスでも、学校が違っても、約束してきた人とは友達になるのよ。
そんなことも全部知って、自分で決めて、自分で納得して生まれてきたのよ》
「僕が、自分の足が悪くなることを知って、それを承知の上で生まれてきたってこと?」
《そうよ。
あなたは何もかも自分で納得して生まれてきたのよ》
「僕・・・お父さん。お母さんに、口では言わなかったけれど、何でこんな身体に産んだんだって、ずっと思っていたんだ。
でも、自分で知って、承知の上で生まれてきたんなら、お父さんお母さんを恨むのは、ひどい間違いということですよね?」
《そうね。
きつい言い方だけど、あなたが子供にして欲しいってお願いしたからあなたは生まれてきた。その願いを叶えて下さったご両親に対して、とっても大きな親不孝かも知れないわね》
○○くんは、下を向いて、何かを一生懸命にこらえているようでした。
《○○ちゃん、もし、お母さんに悪かったって思ったなら、素直に謝ると良いのよ。お母さんも、悦んで下さるわよ》と、光輔君のお母さんが言いました。
今までずっと黙っていた○○くんのお母さんが口を開きました。
『やっぱりそうだったんだね。
お父さんも私も、○○をこんな身体に産んでしまって、本当に申し訳ないと思っていたんだよ。
でもそれを口に出すと、○○が頑張ることをやめてしまうんじゃないかと、それが心配で言えなかったんだよ。
でも○○の態度で、薄々感じていたよ、私たちを恨んでいるんじゃないかって』
「お母さん、ご免なさい」、○○くんは、この言葉を発するだけで、後は何も言えませんでした。
○○くんのお母さんも、『○○が、元気いっぱいでいてくれたら、お父さんもお母さんも、それが一番嬉しいんだよ』と言うのが精一杯でした。
光輔君のお母さんは、《出過ぎた真似をしまして申し訳ございませんでした》と○○くんのお母さんに言いました。そして、○○君に向かっては、《光輔とずっと、良い友達でいてね》と言いました。
○○くんのお母さんは、「素晴らしいお話しを本当に有り難うございました。○○が、もっともっと胸を張って生きていけるような、そんな素晴らしい家庭にしていくように頑張ります」と言いました。
帰り道に
『○○くんもお母さんも、あの話が分かってくれて良かったね。
お空の上の話や、人間は生まれ変わってくるという話なんか、信じない人が多いから、お母さんが話を始めたとき、心配でヒヤヒヤしていたんだよ』
「そうね、信じない人も多いわね。
でも、人間は本当に行き詰まったときは、生まれる前のことを踏まえて考えないと、理屈が合わなかったり、神様は不公平だと思ったりするってお祖母ちゃんが言っていたわ。
本当にその通りで、人生を真剣に生きようとしている人は、今までそんなことを考えていなくても、理屈が合ったら、そうなんだって心が納得するみたいね。
だから光輔ちゃんも、必要があるときは、勇気を持ってこんな話もして上げると良いわね」
『そうだね。
もう○○くんとは、こんな話が普通に出来るから、もっともっと素晴らしい友達になれるかも知れないね』
《そうよ。
こういう話が出来る人とは特に縁が深いそうだから、もっと上の学校に行って離ればなれになっても、会社に勤めるようになっても、結婚しても、子供が出来ても、キット素晴らしい友達同士なんだと思うよ》
日はとっぷりと暮れ、上を見上げると、星空が広がっていました。
《光輔ちゃん、あれがオリオン座。
あの三つ星の先に明るい星があるでしょう?
そのもっと先の同じぐらいの所にも星が見えるでしょう?
あれが昴。牡牛座の中にある星よ。
幾つかの星が一緒になって見えているんだけど、統一するとか纏めるという意味の、「統べる」とか「統ばる」って言葉が語源なの。
あの昴のように、○○くんだけじゃなく、ボスのような□□くんも、他の人たちとも一緒になって、みんなが大きな友達の輪になってくれたらいいなって思っているんよ》
『ウン、僕もそう思った。
今回のことで、□□くんとも、友達になれたらいいなって思ったんだ』
そのとき、星空の中の昴が、ピカっと、光を強くしたように思えました。
ーーおしまいーー