神様の身体(かみさまのからだ)
お祖母さんと二人で買物に
光輔君のお母さんは、働いてはいないのですが、何故かとても忙しいのです。
「今日はちょっと用事があるから、お祖母さんのところで遊んでてくれる? 夕方には迎えに行くから」というようなことが、時々あるのです。
今日もそんな日でした。でも、光輔君は、お祖母さんが大好きでしたので、お祖母さんと一緒にいることも楽しくて仕方がありませんでした。
お祖母さんのお家で遊んでいると、お祖母さんが、『光輔ちゃん、晩ご飯の買い物に行こうか?』と言いました。
光輔君は、〈何かおやつを買ってくれるかもしれない〉と思って、「いいよ」と言って近くのスーパーに行くことになりました。
近いと言っても二十分ぐらい歩かないといけないので、お祖母さんはいつも車で行っています。だから今日も、車が置いてある駐車場まで、二人で歩いていきました。
ワンちゃんのウンチが落ちていた
すると、駐車場の手前の道路に、ワンちゃんのウンチが落ちていました。
お祖母さんは『ワンちゃんのウンチだわ』と言って、駐車場の車の中からビニールの袋とティッシュとゴミ用のハサミを持ってきて、そのウンチをビニールの袋に入れました。
「お祖母ちゃん、それ、どうすんの?」と、光輔君は聞きました。
お祖母さんは、『そうね、帰りはたくさんの食べ物を持っているから、それと一緒に持つのはイヤだから、ちょっと戻らないといけないけど、先にマンションのゴミ箱に入れましょう』と言って、元来た道を戻り始めました。
光輔君は、何かちょっと引っかかるものを感じながら、お祖母さんの後に付いていき、また聞きました。
「でも、本当は犬を連れていた人が、ウンチの後始末をしなけりゃいけないでしょう?」
『そうね、ワンちゃんの散歩をしている人が、自分の犬の後始末をするのが一番いいわよね。
でも、この地球には、色んな心の段階の人がいるから、そんなことは邪魔くさいと思って放ったらかしにする人もいるわね』
「僕らも放ったらかしたらいいんじゃないの? 何もお祖母ちゃんが、他の人の後始末をしなくても・・・」
光輔君は、他の人が放ったらかした犬のウンチを、全然関係のないお祖母ちゃんが始末をするのがよく理解出来ませんでした。
他の人が放ったらかした犬のウンチを誰が片付けるのか?
『だって汚いでしょう?』とお祖母さんが言いました。
『もし光輔ちゃんの身体に犬がウンチをつけて、その飼い主がそのままで行ってしまったら、人がやったヤツだからと、そのまま放っておく?』
「そりゃ、すぐに綺麗にするよ」
『そうでしょう?
○じゃあ、光輔ちゃんのお母さんが、両手に荷物を持っていて下に降ろせないときに、そんなことになったら、光輔ちゃんはどうする?
○犬の飼い主が綺麗にするべきだと言って、そのままにする? それとも大好きなお母さんの服が汚れているのだから、すぐに綺麗にして上げる?』
「そりゃ、すぐに綺麗にするよ」
『そうでしょう?
○この宇宙の銀河の星々は神様の身体って教えていただいているの。そうするとこの大地・地球は、神様の足の一部かな、手の一部かな?
○神様は、私たちのお父さんであり、お母さんでしょう? その神様の身体が汚れていたら、綺麗にするのは当たり前でしょう?
○神様はこの地球上のことは全部、人間にお任せになったの。だから手の使えないお母さんと一緒。私たちが綺麗にしないとね』
でも光輔君は、なかなか納得できません。
「そんなことをしていたら、朝から晩までウンチ拾いをしなければならないんじゃないの?」
『そうね・・・。
○この地球を、この日本を、一人で掃除しようと思っても出来るはずがないので、気がついたときに、自分で出来る範囲で綺麗にすれば良いのよ』
そう言ってお祖母さんは、ウンチの袋をマンションのゴミ箱に捨て、車を運転して買い物に行きました。
法律で、飼い主が犬のウンチを拾うように決めればいい?
光輔君はお菓子を買って貰ったので、気持ち的には満足だったのですが、さっきのワンちゃんのウンチがまだ引っかかっているようです。
「お祖母ちゃん?」と光輔君が言いました。
『なぁに?』とお祖母さんは答えました。
「お祖母ちゃんはいっつも、あんな風にワンちゃんのウンチを拾ってるの?」
『そうね。車の中にはビニールの袋とハサミとティッシュを準備してあるから、お家と駐車場の間に落ちていたりするときは必ず拾っているわよ』
「お祖母ちゃんじゃなく、犬の飼い主が拾うように法律で決めれば良いんじゃない?」
『そうね・・・。
○でも、法律で決めたって守る人は守るし、守らない人は守らないんじゃない? 今だって、悪いことをしてはいけないって法律で決めていても、守らない人も多いでしょう?
○本当は法律なんか無くったって、人の心は、本当は何が正しくて何が間違っているか、よく分かっているのよ。
○その正しい心に素直に従えば、悪いことなんか出来ないんだけど、その正しい心を覆い隠して、お金だとか物だとかを大事にして、自分さえ良ければ良いという自分勝手な悪い心に負けてしまうのよね』
心には、正しい心と悪い心がある・・・自分にはウソをつくことが出来ない正しい心
「心には、正しい心と悪い心があるの?」
『そうよ。
○チョット難しいけれど・・・、光輔ちゃんは、自分に嘘をつくことが出来る?』
「それは出来ないよ。嘘をついていることが自分で分かっちゃうから」
『そうよね。その心が、神様と繋がっている正しい心。
○でも、人間によっては、その正しい心がいけないって思っているのに、お金を儲けるためには少しぐらい悪いことをしても仕方が無いだとか、他の人もしているからだとか、人に分からなければ良いんだとか思って、正しい心を覆い隠してしまうの。この、自分中心の心がいけない心ね』
「何か良く分かんない」
『ウーン、じゃあ、ワンちゃんのウンチで考えるとね、自分の所のワンちゃんのウンチを放ったらかしにしたらいけないって、みんな知っているでしょう?』
「ウン、そう思う」
『でも、邪魔くさいとか、面倒だとか、誰かが綺麗にしてくれるだとか、自分中心に考えてしまうから後始末をしない訳でしょう?』
「そうだと思う」
『正しい心には嘘をつけないから、そんなことをしてはいけないって分かっているんだけれど、正しい心の声はとっても小さいの。だからよーく耳を澄まさないと聞こえないの。
○聞こえないから、少しぐらい良いやっていう自分中心のいけない心が勝ってしまって、そのままにしてしまうことになるの。
○でも、正しい心は、神様からいただいた自分の本当の心だから、正しいことをしないときは、その正しい心は本当は凄く苦しんでいるのよ。そういう人もいつか、そんなことに気がつくようになるのよ。みんな、神様の子供だからね』
「ふーん」
お祖母さんは最後に、
○『日本中の人、一人ずつが、たった一つのゴミを拾ったら、一日で日本がゴミ一つ無い素晴らしく美しい国になってしまうのよ。
○でも、そうなるのを期待して人がやるのを待っていたらダメなのよ。
分かった人が率先してやらないと、そんな国にはいつまで経っても、なるはずがないからね』
○と言いました。
光輔君は、何となく分かったような気持ちになっていました。
光輔君も、ワンちゃんのウンチを拾ってくれた
暫くしたある日、光輔君とお母さんがお祖母さんのお家にやってきました。
駐車場に車を停めて、お祖母さんのお家に歩いてくる途中に、ワンちゃんのウンチが落ちていました。
光輔君は走ってお祖母さんのお家に着いて、
○「お祖母ちゃん、ハサミとゴミ袋ある? ワンちゃんのウンチが落ちていたから拾ってくる」
○と言いました。
○『そうなの。綺麗にしてくれるの? 偉いわね。はい、ゴミ袋とティッシュとハサミ。
○ティッシュをウンチの上に置いてからハサミで拾うんだよ』と、お祖母さんは言いました。
「分かってるって。この前、お祖母ちゃんのやり方を見ていたから」と言って、元来た道を走っていきました。
光輔君はウンチを拾って、お祖母さんのマンションのゴミ箱に片付けてから、お祖母さんのお家に戻ってきました。
するとお母さんが、はじけるような笑顔で両手を広げて待っていました。
光輔君が「どうしたの?」と聞くと、お母さんは、〈人の嫌がることを堂々とするって、やっぱり私の大好きな光輔君よ!〉と言って、ギュッと抱きしめました。
光輔君は嬉しかったのですが、「当たり前だよ、神様の身体が汚れているのを見て放ったらかしにしちゃ、いけないからね」と、当然のように言いました。
その傍でお祖母さんは、この前のことを光輔君がキチンと理解してくれたことを悦んで、
○『光輔ちゃん、本当に素晴らしいわ。
○良いことだと分かっていてもしない人もいるし、出来ない人が多いの。正しいことは勇気が必要なの。その勇気を出して光輔ちゃんがやってくれたことは、本当に素晴らしいと思うわ』
○と言うと、光輔君は、こう言いました。
「嘘をつけない正しい心に、正直に生きないとね」と。
『まあ、凄い!』と、お祖母さんは言ってから、お母さんに向かって、
『嘘をつけない正しい心って分からないでしょう? 後で光輔ちゃんに教えて貰うといいわ』と言いました。
お母さんは光輔君に向かって、〈宜しくお願いします〉と言って頭を下げたので、三人で大笑いをしました。
ーーおしまいーー