光輔 くんが一人 でお祖母 さんのお家 へ行 く
ある日 、お祖母 さんの家 の電話 が鳴 りました 。
○誰 からかしら、と思 いながら電話 に出 ると、珍 しく光輔君 からでした 。
○「お祖母 ちゃん? これから行 ってもいい?」と聞 いてきました 。
○『もちろんいいわよ。お母 さんと一緒 ?』と聞 くと、「ううん、僕一人 』と言 うではありませんか 。
○『あら、一人 なの? お母 さんに送 ってもらうの ?』
○「ううん、一人 で行 く」
○お祖母 さんは、何 かあったなと思 いましたが、それは聞 かずに、『電車 で来 るの?』と聞 きました 。
○「ウン、電車 で行 く」
○『一人 で来 れる? 迎 えに行 こうか?』
○「大丈夫 、一人 で行 けるから」ということで、光輔君 は、お祖母 さんの家 に一人 で来 ることになりました。
○暫 くすると、お祖母 さんの家 のチャイムが鳴 って、光輔君 が無事 に着 きました 。
○お昼 を過 ぎていたけれど、お祖母 さんは、『お腹 は空 いてないの?』と聞 きました 。
○光輔君 は、『何 か食 べれる?』と聞 き返 しました。
○『そうねー、急 だから、焼 きそば、焼 きめし、唐揚 げぐらいかな・・・』と言 いました 。
○光輔君 は、「唐揚 げ!」と大 きな声 で言 いました 。
お母 さんが、光輔君 の誕生日 を忘 れちゃった?
暫 くして、お祖母 さんの作 った唐揚 げとご飯 を、光輔君 は美味 しそうに食 べ終 わりました 。
○食 べ終 わった食器 を片付 けてから、お祖母 さんは光輔君 に尋 ねました 。
○『お母 さんと、何 かあったの?』と 。
○「うん・・・」と、光輔君 はちょっと沈 んだ声 で答 えました。「あのね、今日 は、僕 の誕生日 やねん 」
○『そうよね。お祖母 さんも、ちゃんと覚 えているわよ 』
○「お母 さんが、誕生日 に何 が食 べたいって聞 くから、ハンバーグって言 っていたのに、僕 の誕生日 を忘 れてしまって、ハンバーグを作 ってくれていなかってん 」
○『それで、お昼 ご飯 を食 べないで、お祖母 さんの所 に来 たの ?』
○「うん・・・ 」
○『そう・・・、大好 きな光輔 ちゃんが怒 って、ご飯 も食 べないで、家 を飛 び出 してしまったら、お母 さんは泣 いているかも知 れないね ?』
○「そんなこと言 ったって、悪 いのはお母 さんなんだから。約束 を破 って・・・ 」
○『そうね、約束 を破 るのはいけないことね。でも、お母 さんは、光輔 ちゃんに意地悪 をしようと思 ってハンバーグを作 らなかった訳 じゃないわよね ?』
○「そりゃ、そう思 うけど・・・ 」
○『お母 さんも忙 しいんだから、忘 れることもあるでしょう? 大好 きなお母 さんなんだから、それ位 は許 して上 げないと 』
○「ダメだよ! ずっと、楽 しみにしていたんだから・・・ 」
○お祖母 さんは悲 しそうに目 を伏 せました。そして、心 を決 めたように、姿勢 をキチンと正 して、強 い言葉 で言 いました 。
○『光輔 ちゃん! そこに座 りなさい!』
○光輔君 は、ビックリして、「どうしたの?」と言 いながら、お祖母 さんの前 に正座 をしました 。
お祖母 さんのお話
『これからお祖母 さんの言 うことを、よーく聞 きなさい』
○お祖母 さんは、ゆっくりと話 し始 めました。
○『まず、光輔 ちゃんがいま生 きているということは、お父 さんとお母 さんが居 たお陰 だよね ?』
○「うん・・・ 」
○『お父 さんがいなければ、光輔 ちゃんは今 ここに居 ることはないよね。お母 さんが居 なければ、あなたは生 まれることはなかったわよね 』
○「・・・・・ 」
○『あなたの肉体 は、ご両親 によって与 えられたのよ。しかも、一円 のお金 を払 うこともなしに、肉体 を頂 いたのよ。
○ただで頂 いただけでなく、ただで育 てて頂 いた。全 てが与 えられたものばかりということよ 』
○『よーく考 えてね。
○光輔 ちゃんは、ただで肉体 を与 えられ、ただで育 てていただいたのです。
○今 、もし仮 に、あなたのご両親 がその肉体 を返 して欲 しいと言 われたら、あなたはどうするの…… 。
○光輔 ちゃんは嫌 だって言 えないんじゃないかしら。だって、あなたの体 は、すべてご両親 から与 えられたものでしょう。自分 のものは、何 一つないでしょう 。
○もちろん、あなたのお父 さんやお母 さんが、そんなことを言 うはずはないんだけどね 』
○「・・・・・ 」
○『光輔 ちゃんは、お母 さんが約束 を破 ったと、又 それ以外 のことでも怒 ったり、恨 んだり、いけない思 いを持 ったこともあることでしょう。
○だけれど、ご両親 がどれほど一生懸命 に、身 を粉 にしてきたか、そのお陰 で光輔 ちゃん、あなたが今 ここにいるということを思 い返 してみないといけないわよ 』
光輔君 が、お母 さんのお腹 の中 にいたときと産 まれたとき
『さあ光輔 ちゃん、あなたは今 、あなたが生 まれる前 のお母 さんのお腹 の胎内 にいると想像 してご覧 ・・・ 。
○お母 さんのお腹 の胎内 は暖 かです。ゆったりしています。何 の不安 もありません。そのようにして一〇ヶ月程 の間 、あなたはお母 さんの体 に守 られて、ゆっくり育 っていきました 。
○お母 さんは大変 でした。ある時 はつわりといって体 の調子 が悪 くなって吐 きそうになり、何日 も苦 しみました。身体 は重 くなり、動 くのさえ大変 になってきました。トイレに行 くのも苦 しいほどです。肩 で息 をしました。
○夏 の暑 い日 には、かんかん照 りの日差 しの中 を、お腹 を突 き出 してあえぎながら、毎日 、市場 へ買 い物 に行 ったものです 』
○『お母 さんも、たまには映画 を見 たいと思 ったこともあったでしょう。けれども人 ごみの中 へ出 かけては、お腹 の子 に悪 いと控 えたのでした。胎教 に悪 いからと読 みたい本 を読 まないこともありました。いつも考 えるのは、お腹 の子 のことばかりでした 。
○丈夫 な子 が生 まれるように、そればかり念 じておりました。時 には赤 ん坊 の光輔君 は、お腹 の中 で手足 を動 かし暴 れました。「ああ、丈夫 に育 っている」と、それが何 よりの喜 びでした 。
○光輔 ちゃん、よーく考 えてね。お腹 の胎内 にいた、僅 か一〇ヶ月程 の間 でさえ、お母 さんはこれだけのことを思 い、行 ってきたのよ 』
○『やがて出産 の時 が来 ました。お母 さんの陣痛 は大変 なものでした。骨 の節々 まで痛 み、身体中 から脂汗 を流 しながら痛 みに耐 えたのでした。
○この子 が無事 に生 まれてさえくれればそれでいい。ただ、それでいいと、必死 になって長 い時間 、陣痛 と戦 って、あなたをこの世 に送 り出 そうとされたのです 。
○お父 さんもそうでした。出産 が近 づくと、もう何 もいらない、ただ赤 ん坊 の手足 の指 が五本 ずつ揃 っていればいい、母 と子 が無事 であれば、もうそれ以上 何 もいりませんと、ひたすら祈 り続 けました。ひたすら祈 りながら産室 の前 を歩 き回 ったものでした。それがあなたのお 父さんの姿 でした。
○あなたがこの世 に生 を受 けるまでに、すでにご両親 は、これだけの愛 いっぱいの思 いでおられたのよ 』
幼 い頃 の光輔君
『思 い出 してね・・・。
○こうしてあなたはこの世 に生まれました。「おぎゃー」と呱々 の声 を上 げた時 も、両親 の喜 びはどんなに大 きかったか。その声 を聞 いてお母 さんは、自分 までが初 めてこの世 に生 まれたように喜 びました。お父 さんもまた、安堵 の胸 を撫 で下 ろし、涙 さえ浮 かべたものでした。そして手 を取 り合 って二人 で喜 び合 ったのでした。
○光輔 ちゃん、あなたは覚 えていないでしょうけど、生 まれて一週間 であなたとお母 さんは退院 しました。でもその夜 、お母 さんは急 に体調 を崩 し、救急車 で病院 に運 ばれたの。そして緊急 の輸血 をして貰 ったお陰 で命 が助 かったのよ。お母 さんは、自分 の命 をかけて、光輔君 をこの世 に出 そうとしたのよ 』
○『それからは、一切 がお母 さんの手 によって育 ちました。お母 さんの懐 を寝床 として、お母 さんの膝 を遊 び場 として、お母 さんのお乳 が唯一 の食 べ物 として育 ちました。
○お母 さんの手 でなければ夜 も昼 も明 け暮 れません。お母 さんの手 がなければおむつはそのままです。夜中 にむずかり、泣 き出 してお母 さんを起 こします。両親 は昼間 の疲 れもいとわず、二人 で飛 び起 きてあなたの世話 をして下 さいました 』
○『あなたがヨチヨチ歩 きを始 めると、両親 の気遣 いは大変 なものでした。お母 さんは台所 で水仕事 をしていても、あるいはちょっと外 に出 かけても、気 がかりでならないのです。泣 き声 が聞 こえてくると、どこかから落 ちたのではないか、何 かに頭 をぶつけたのではないかと、息 せき切 って走 ってかけつけました 。
○それがたとえ、空泣 きであっても急 いで抱 き上 げておっぱいを含 ませました。痛 いほど乳房 を噛 まれても、お母 さんは我 が子 があどけなくおっぱいを吸 い、にっこり笑 う笑顔 を見 さえすれば、一切 の苦 しみを忘 れるのです。それがあなたのお母 さんでした 』
○『赤 ん坊 のあなたは何 もわかりません。お父 さんが注意 していなければ、ストーブの火 が身体 を焼 くことを知 りません。お母 さんがいなければ、刃物 が指 を切 ることを知 らないのです。両親 がいなければ、毒 で命 を落 とすことも知 らず、何 でも飲 み込 んでしまうのです。どれほどの心 づかいや、目配 りが赤 ん坊 のあなたに必要 だったか、光輔 ちゃん、分 かりますか。
○熱 を出 して、お医者 さんの所 に走 ったこともあったでしょう。夜 も寝 ずに、心配 で胸 をいっぱいにして看病 してくださったのはご両親 です。病気 をした子供 に、私 の命 に代 えてもこの子 を救 ってくださいと、お祈 りをしてくださったのは、あなたのお母 さんでなくて誰 だったのでしょう 。
○ご両親 がいなければ、あなたは今 、ここに居 なかったはずです。自分 一人 で育 ってきたと当然 のような顔 を出来 るはずはありません 』
小学校 へ行 く頃 の光輔君
『やがてあなたは成長 しました。学校 に行 くようになりました。洋服 を整 え、学用品 を買 い、世間並 みの恥 ずかしくない用意 を整 えて下 さったのは誰 でしょうか。毎日 、ハンカチからチリ紙 まで気 を配 って下 さったのは誰 でしょうか 。
○「車 に気 をつけなさいよ」、「道草 をくわないで」、毎日 そう言 って送 り出 して下 さったのは誰 でしたか。
○お母 さんの心 は愛 で一杯 です。たとえお金 をもらっていても、これだけの愛 の行為 が、誰 に出来 るでしょうか』
○『あなたが成長 するにつれ、しだいに大 きな洋服 がいります。靴 がいります。あなたのお父 さんが、一生懸命 に働 いて得 た収入 があってこそ、必要 なものが整 えられていったのです 。
○会社 に勤 めたり、また自分 で商売 をしたり、それにはどれ程 の汗 と涙 が流 されているのでしょう。辛 いことも忍 んでお父 さんは家族 のために収入 を得 てきました。本当 に苦労 の連続 です。あなたはその苦労 を知 りませんでした。欲 しい物 が買 えるお金 が家 にあるのは当然 のように思 っていたのです。いや、お金 の事 なんか、全然 考 えもしなかったでしょう 』
○『しかし実際 は、将来 のことも考 えなくてはならないから、限 られた収入 の中 からやりくり算段 して、お母 さんは光輔 ちゃん、あなたに必要 なものを買 い与 えていたのです。自分 は流行 りの洋服 を着 なくても、あるいは、化粧品 は百円 の安 いクリームで我慢 して、あなたに恥 ずかしくない服装 を用意 したのです……… 。
○冬 がやってくればあの子 はセーターがいるだろう、手袋 もいるだろうと心 をくだいて、あなたの事 ばかり考 え配慮 して下さったのは、お母 さんです 。
○思 い 出 してね、何年 も前 の古 ぼけたコートのままで、町 を歩 いていたお母 さんの後姿 。その後姿 にあなたへの一杯 の優 しい愛 が、母 の心 が溢 れていたことを 』
○『こうした多 くの両親 の犠牲 と愛 によって、あなたは、いま、ここにある訳 よ。それに気付 いたことがありますか。
○その愛 は、両親 の身 を削 るような犠牲 の中 に育 み、今 のあなたがあるのです 。
○光輔 ちゃん、あなたは、お父 さんやお母 さんのこのような愛 の行 いに感謝 したことがありますか。たとえしていたとしても、両親 の愛 の心 に対 して、両親 の愛 の大 きさ広 さとは、全然 違 うことが分 かるでしょう。現 にあなたは、ご両親 の心 を痛 め、苦 しめることを、何度 繰 り返 したことでしょうか…… 』
○『ご飯 が美味 しくないと言 って箸 を投 げ出 し、口 も効 かなかったことはありませんでしたか? 苦 しい家計 のやりくりの中 から作 った食事 に、このおかずは嫌 い、このおつゆは辛 い、そう言 って感謝 もなく、心 を不満 で一杯 にした事 はなかったですか? 犬 や猫 でさえ、文句 を言 わずに食 べるのに、あなたは好 き勝手 なことを言 ったりしませんでしたか ?』
○『洋服 の柄 が気 に入 らないと言 ってぶつぶつ文句 を言 った事 はありませんでしたか? 親 の愛 が満 ち溢 れているその洋服 を怒 って、泣 きわめき、我 を通 そうとしたことはなかったですか ?』
○『今回 だけじゃなくて、お母 さんが忘 れたと言 って怒 った事 もあったんじゃないですか? 忙 しい上 に心配事 の多 いお母 さんが、一度 か二度 忘 れた事 を、罵 り返 す権利 なんて、あなたのどこにあったと言 うのですか ?』
こんな大 きなお母 さんの愛 を、みんなが忘 れてしまっている
○『本当 の光輔 ちゃんは、そんな光輔 ちゃんじゃないことは、お祖母 さんはよーく知 っています。でも、今 、目 に見 える光輔 ちゃんは、自分 の事 しか心 にないエゴイスト。こんな愛 いっぱいのお母 さんに怒 っているあなたは鬼 ではないですか? それが光輔 ちゃん、今 のあなたの姿 じゃないの?』
○光輔君 は、こんな話 を学校 でも教 えて貰 ったことがありません。でも、素直 な光輔君 の心 には、お祖母 さんの話 がスーッと当 たり前 のように染 み込 んでいきました 。
○光輔君 は、目 にいっぱい涙 を溜 め、声 を上 げて泣 き出 すのを必死 でこらえていました。目 に溜 まった涙 がポロポロ、ポロポロと、いくつもいくつも流 れ落 ちました 。
○『でもね光輔 ちゃん、このようなことはあなただけじゃなかったの。お祖母 さんも一緒 。あなたの曾 お祖母 さん、曾 お祖父 さんに、同 じようなことをしてしまっていたの 。
○お祖母 さんの場合 は、私 が大人 になって、子供 を産 んで、初 めて自分 のお母 さんの気持 ち、あなたの曾 お祖母 さんの大 きな大 きな愛 が分 かったの。
○でも、それじゃあ、遅 すぎるの。小 さいときからお母 さんの大 きな愛 を受 け止 めながら育 たないと、その子供 の愛 も、大 きく大きく育 っていかないの 。
○だから、厳 しい言葉 だと思 ったけど光輔 ちゃんに、その、お母 さんの愛 を知 って欲 しかったの 』
○『私達 の身体 は、お父 さんとお母 さんの愛 が、一 つ一 つ集 まって出来 ているのよ。私達 の身体 は、単 なる肉体 なんかではないんだよ 。
○そうした大 きな愛 を受 けながら一人前 になってしまうと、両親 をなおざりにしてしまうのが人間 なのね 』
いただいた大 きな愛 に、どのようにお返 しをしたらいいのでしょうか ?
『夜中 に目 が覚 めて、隣 に寝 ている光輔 ちゃんのスヤスヤ眠 る寝姿 を見 て、一安心 してまた眠 りにつく、そのような母 の心 、父 の心 を思 いやる時 が、あなたにこれまで何回 あったでしょう 。
○自分 のお腹 を痛 め、ひたすら育 ててきた子 に、裏切 られる親 の悲 しみはどんなものでしょうか。それ程 の言葉 でなくとも、そのような親 の心 を刺 す言葉 を、あなたは何度 、口 にした事 でしょう。両親 にこんな思 いを抱 かせる人 があったならば、もはやその人 の心 は地獄 の心 ですね 』
○『光輔 ちゃん、じっーと、あなたの、自分 の心 を見 つめてご覧 。今 、あなたの心 の中 にお父 さん、お母 さんに対 する本当 の思 いがあるはずです。お父 さん、お母 さん、本当 にご免 なさい、そういう思 いがよみがえっているはずです。その思 いこそが、本来 あなたが持 っている愛 の心 、思 いやりの心 です。神様 から受 け継 いだ本当 の心 です。その心 をしっかりと知 ってね。
○さあ、その心 を持 ってあなたは、ご両親 に感謝 し、感謝 する思 いを、ご両親 に愛 の行為 として返 していくのよ。
○友達 のお家 で美味 しいものをいただいたら、持 って帰 って「お父 さん、お母 さん、これおいしいよ」とすすめて下 さい。どんなに喜 ばれる事 でしょう 。
○その時 また、愛 の言葉 が返 ってくるでしょう。「私 たちはいいよ。光輔 ちゃんが食 べて…」、若 しくは、「それじゃ、半分個 にしようか」、そのご両親 の心 をしっかりと胸 に刻 み込 んで下 さい 』
○『お母 さんが沈 んだ顔 をしているとき、明 るい愛 の言葉 を掛 けてあげてください。そんな日 の夜 は、お母 さんの寝 ている時 の寝息 を伺 ってあげてください 。
○これはかつて、そして今 も、ご両親 があなたにして下 さっている事 なのです。それがあなたに出来 ないはずはありません。その時 、あなたは初 めてご両親 の愛 の深 さを体験 する事 が出来 るのです。初 めて親 の愛 の心 と同 じ心 に成 ることが出来 るのです 』
○『このように親 に孝養 を尽 くす時 、ご両親 はあなたという子 を得 た喜 びに胸 を震 わせるでしょう。良 い子 を持 ったという嬉 しさで一杯 になるでしょう。その時 、親 と子 の間 に本当 の愛 の交流 が始 まるのよ。その時 ご両親 の苦 しみは一瞬 にして幸 せいっぱいの花 が咲 くことでしょう 』
○『今 、光輔 ちゃんは生 まれてから今 まで、ご両親 があなたに注 がれた愛 というものを振 り返 って来 ました。そして、ご両親 への数々 の誤 ったの思 いと行為 に気 がつきました。その誤 った自分中心 という思 いを、これからの毎日 の生活 で正 しくしていってね 。
○それはご両親 の愛 の心 に相応 しい、自分 に立 ち戻 るという事 。その心 で今 から生 きていこうね。お父 さんやお母 さんに、その心 で接 していこうね。その心 とは愛 の心 です。思 いやりの心 です。神様 から受 け継 いだ、あなたの本当 の心 です 』
○『私 の尊敬 する偉 い偉 い先生 から、素晴 らしい言葉 を教 えていただいたのよ 。
○「愛 多 ければ、成 すこと多 し」
○自分 の心 に愛 が沢山 あったら、して上 げたいと思 うことがいっぱい、いっぱいあるということ 。
○もう一度 言 うわよ、「愛 多 ければ、成 すこと多 し 」
○光輔 ちゃんも忘 れないでね 』
○光輔君 は、わなわなと震 えながら、首 を縦 に振 って「ウン」とだけ答 えました 。
お母 さんもお祖母 さんのお話 を聞 いていた
その時 、部屋 の入口 のドアがカチャと音 がしました。そこにはお母 さんが、光輔君 と同 じように、涙 をポロポロ流 しながらも、笑顔 いっぱいで立 っていました。黙 って出 て行 ってしまった光輔君 を心配 して、追 いかけてきたのでした 。
○光輔君 はお母 さんをめがけて、飛 びついて抱 きついていきました。そして、「お母 さん、ご免 なさい」と大声 で泣 き出 してしまいました 。
○お母 さんは、《ううん、お母 さんこそ、大事 な誕生日 を忘 れてしまって、ご免 ね》と言 いました 。
○光輔君 は、その言葉 を聞 いて、《そんなことぐらい、どうでも良 いんだ》というふうに、首 を一生懸命 に横 に振 っていました 。
○お祖母 さんはそっと、台所 に立 って行 きました 。
○そして、暫 くしてから、『お母 さんも来 たから、ケーキでも食 べましょうか? 今日 は、光輔 ちゃんの誕生日 だからね・・・』と言 いながら、お盆 に載 せたケーキを持 ってきました 。
○光輔君 もお母 さんも、『うわー、美味 しそー』と、笑顔 いっぱいに包 まれました 。
ーーおしまいーー